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第19期「フォーラム環境塾」開講ご挨拶



「フォーラム環境塾」塾長
武田 信生
京都大学 名誉教授


 21世紀初頭、2001年に開塾した環境技術講座「フォーラム環境塾」は多数の産官 学組織のご支持をいただき、また多くの人々の献身的努力に支えられて、18期(18 年間)の実績を重ね多数の卒塾生を輩出してまいりました。卒塾生諸君は、自社内は もちろんのこと業界内でも指導的役割を果たすとともに、わが国の環境技術をより 高いレベルに維持し海外にも普及させることに貢献してくれており、誠に頼もしい 限りであります。
 初代塾長故平山直道先生は、わが国における指導的な環境技術者、廃棄物技術者を 養成することを目的にこの塾を開設されました。先生は新しいアイディアや構想を 実現するための技術開発を担うことができる技術者を育てるためには、熱力学の基 礎から鍛え上げる必要があると力説されていました。  2003年、平山先生の急逝を受け、藤田賢二先生が平山先生の遺志を継いで第二代 塾長に就任され、2007年3月までお務めいただきました。藤田先生は時代の変化に 対応して、このフォーラムの内容を、より幅広に展開していくことに尽力されました。 小生は浅学ながら、藤田先生のあとを受け2007年から第三代の塾長を務めさせてい ただいております。
 時間の流れにしたがって、また空間的な広がりの拡大に伴ってこの塾が取り上げ る具体的な課題には変化が出てきますが、それは必然的なことであって基本的な理 念や目指すところは開設当時といささかも変わっていないと考えております。それは、 現在および将来の人間が環境の恵沢を享受できるように、環境への負荷が少なく持 続可能な社会の構築に資する環境技術を発展させ普及させることに貢献すること であります。
 開塾以来約20年の月日が経過しましたが、その間に私たちを取り巻く状況は、私 たちの予測や想像をはるかに超える速さと規模で変化を遂げてきました。今年 (2018年)、わが国は大きな地震や台風の襲来を受け甚大な被害が出ましたが、最近は 天変地異、つまり自然界に起こる異変が突然で激しいものになっていると感じてい る人は少なくありません。台風の大型化・強力化や生態系の変化の原因には人為的 な要素が大きく関わっているように思われます。海水温度の上昇が台風の勢力を強 めていることは、数年前に巨大台風がフィリッピンを襲った際にいわれていたこと であったと思いますが、今年はいよいよ日本列島の近くでこの現象が起こったように 見えます。そのほかにも、内陸部における動植物に起こっている変化、海産物の魚種、 漁獲量の変化なども地球の温暖化による影響が見られるようになってきたように 見えます。
 政治の世界、あるいは世界情勢も太平洋戦争後のつかの間の安定期が終わり混沌 とした時代に入ったように感じられます。東西の冷戦、中東情勢、ヨーロッパ世界と アジア・アフリカ世界などという定型的な図式で説明ができないようなカオスが現 状を表すにふさわしい言葉になっているように見えます。特に、自由主義あるいは 社会主義を標榜する国においても例外なく強権政治が目立つようになってきたこ とは心配です。暴力であるか経済力であるかを問わず、力ずくで言い分を通そうと するやり方が大手を振って通用していることは危険な兆候と言わざるを得ません。  産業社会も今までの常識が陳腐なものになりつつあるのかも知れません。自動車 会社と情報通信会社が新しいモビリティーサービスの構築に向けて提携をはじめ たことは、次代に向けての産業の大きな転換を示唆するものと考えられます。AIや データの収集・蓄積というバーチャルな世界とリアルなサービスを提供するハードや その拠点の結合が新しい未知の領域を確実にしていくものとなる可能性があります。 今まで考えられなかった産業活動・経済活動が大きな主役の立場を獲得していくこ とになるかも知れません。
 大きな変革期に当たってどのような姿勢で技術者は臨んでいかねばならないの か?大変重要な局面に向かっていきそうに予感されます。今年、ノーベル医学生理 学賞を受賞されることになった本庶佑先生は「自分の頭を通して確認する」ことの大切さを強調されておられましたが、これは私たちに与えられた先達の貴重な助言 として受け止めたいものです。
 この環境塾では、各分野におけるわが国一級の講師による緊張感のある講義を提 供すると同時に、現場見学や討論を通じて、深く広く学ぶとともに真実を見抜く力を 培っていくことが大切であると考えております。そのような過程で塾生諸君が社内 教育や個別分野でのセミナーでは得られない貴重な経験をし、大きく成長してくれ るものと確信しております。